悪い子の6CK4アンプ製作
測定と調整

測定結果

1.入出力特性


A級PPは、思いの外出力が取れ最大出力は7Wとなりました。差動PPでは最大出力は4.4Wです。
利得、帰還量はA級PP、差動PPともに同じです。
無帰還時利得 無帰還時最大出力 帰還時利得 帰還時最大出力 帰還量
A級PP 13倍(22.5db) 6W 7.5倍(17.5db) 7W 5db
差動PP 13倍(22.5db)
4.1W 7.5倍(17.5db) 4.4W 5db


A級PP:1W:1KHz

A級PP:7W:1KHz

差動PP:1W:1KHz

差動PP:4.4W:1KHz

A級PPと差動PPでは最大出力時のクリップの仕方が異なります。A級PPは波形の頭がスパッと切れた形でクリップを開始しますが、差動PPは波形全体が丸みを帯びてゆき、クリップの始まり点が判然としません。A級PPは7W時で波形の頭のクリップが始まり、この時の歪率は2%程度です。差動PPの4.4Wの歪率は5%ですが、より出力を増やしても波形はより丸まった形となり、頭が平らにクリップすることはありません。

2.周波数特性

周波数特性はA級PPも差動PPも殆ど同じ特性でした。周波数特性図はA級PPの物のみ掲載します。
又、周波数特性測定時にはDS分割位相反転段ゲート側にある20KΩと100Pの高周波雑音除去用LPFは省いて測定しています。実際の稼動時特性は高周波雑音除去用LPFが入る為、測定値より高域が減衰します。
無帰還時で7.5Hz〜42KHz(+0,-3db)です。低域端、高域端とも素直な減衰特性を示します。この裸特性に5dbの負帰還を掛けるのですが、5db降下点の周波数と位相は高域が62KHz:-75度、低域が5.5Hz:+77度と十分な位相余裕があり、安定に負帰還を掛けられます。
高域280KHzと330KHzに3db程度のディッピとピークが見られます。しかし、この時点ですでにアンプの利得は0db(1倍)を下回っており、このディッピとピークが原因で安定度を損ない事は全くありません。
実際には、このディッピとピークが利得0db(1倍)を下回る所に来るように初段の高域特性を調整しました、初段の高域特性を伸ばしてしまうと、このディッピとピークでの利得が0db(1倍)以上になり、高域の音色に特徴が現われます。

5dbの負帰還を掛けると6.5Hz〜63KHz(+0,-3db)の広帯域となります。可聴帯域内での盛り上がり等も全くありません。低域・高域端は帰還後も素直な減衰特性が保たれています。
高域は帰還量なりに拡大されましたが、低域はそれほど伸びませんでした。DS分割位相反転段と初段間にあるカップリングコンデンサ(2μF)の影響と思われます。このコンデンサをもう少し大きくしても良いと思います。

3.方形波応答

方形波応答のA級PPと差動PPで違いは見られませんでした。

1W:8Ω負荷

100Hz

1KHz

10KHz

1KHzと1KHzは非常に良好な波形を示します。高域280KHzと330KHzのディッピとピークの影響は全く見られません。100HzはDS分割位相反転段と初段間での低域の制限の為,右肩下がりの波形になります。

8Ω+ 容量負荷(10KHz)

8Ωのみ

8Ω+0.01μF

8Ω+0.1μF

8Ω+1μF
容量負荷のみ(10KHz)

無負荷

0.01μFのみ

0.1μFのみ

1μFのみ

容量負荷に対しては極めて安定です。波形として明確な違いが現れるのは1μFという大容量を負荷した場合のみです。

4.歪率特性
●無帰還時

差動PPは各周波数の歪率が良く揃っており、0.5W以下の低出力域まで綺麗に歪みが下がっています。A級PPは最大出力に余裕があるので、歪みの上昇が緩やかです、1W以上では差動PPより低歪率となります。最大出力付近でも歪みの急増が抑えられているのが特徴です。
A級PP、差動PPともにプッシュプルアンプの裸特性としては、多少歪みが多目です。これは6CK4自体の直線性があまり良くない事が原因と思われます。又A級PPでは初段と出力段の歪み打ち消しが10KHz当たりが最も巧く働いています、もう少し低い周波数で歪み打ち消しが合うように初段動作点を調整すべきでしょう。

●5db負帰還時

歪みの出方の傾向は無帰還時と同じですが、帰還が掛かった分、全体に低歪み率となります。A級PP、差動PP共に低帰還3極管アンプとして十分な特性が確保されています。

●FFTによる歪成分分析
A級PPのFFTによる歪成分分析です、1Wでは偶数次調波が主体でPPでありながら奇数次調波が多いと言う事はありません。
いずれにせよ低次の調波成分のみしか含まれません。
クリップ直後の7Wでは奇数次調波が増えてきますが、それでも2次と3次の調波が主で4次以上は少なく、最大出力時まで単純な歪み成分です。


A級PP:100Hz 1W

A級PP:100Hz 7W

A級PP:1KHz 1W

A級PP:1KHz 7W


差動PPのFFTによる歪成分分析です、全ての結果について共通するのは次数が上がるごとに歪み成分が減る、大変綺麗な成分分布をしている点です。歪みは出ないに超したことはありませんが、出てしまうのならば、この様な綺麗な出方が理想的です。
100Hz4.4Wでは若干高次の調波まで出ていますが、それ以外2、3、4次成分のみで大変優秀です。


差動PP:100Hz 1W

差動PP:100Hz 4.4W

差動PP:1KHz 1W

差動PP:1Hz 4.4W


●2音によるIM歪み分析(250Hz、1KHz)
250Hzと1575Hzの2音信号を加えた時のFFT分析です。アンプの出力レベルを実効値交流電圧計で2.8V(1W)となるように調整し計測しました。左がテクトロSG5010オシレータの発振信号その物のFFT分析結果、中央がA級PP、右が差動PPです。
差動PPはA級PPよりIM歪が少なく優秀です。


テクトロSG5010オシレータ発振信号

A級PP:1W

差動PP:1W


●2音によるIM歪み分析(1000Hz、1575Hz)
1000Hzと1575Hzの2音信号を加えた時のFFT分析です。アンプの出力レベルを実効値交流電圧計で2.8V(1W)となるように調整し計測しました。左がテクトロSG5010オシレータとメグロMAK-6581オーディオアナライザ発振部にて作成した2音信号その物のFFT分析結果、中央がA級PP、右が差動PPです。
見えている成分は同じで下から
425Hz(IMD)、575Hz(IMD)、1K(主信号1)、1575Hz(主信号2)、2KHz(2nd)、2150Hz(IMD)、2575Hz(IMD)、3K(2ndと3ndの混合)、3575Hz(IMD)
となります。
IMDの全体的レベルはA級PPの方が低いですが、高次のIMDは差動PPの方が少ない傾向です。A級PPでは1KHzと1575Hzにそれぞれ+-100Hzの付帯波が見られますが、差動PPでは見られません。A級PP、差動PPでのハッキリとした優劣は見られません。


入力したテスト信号

A級PP:1W

差動PP:1W


5.残留雑音
残留雑音はA級PPが優れます。差動PPは無帰還時も多いのですが、帰還を掛けても、あまり低減しません。
無帰還 5db帰還
A級PP 0.57mV 0.18mV
差動PP 0.78mV 0.58mV


6.ダンピングファクタ

A級PP、差動PP共に4前後の良好な特性です。



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