WaveSpectraでの歪率測定方法を擬似歪み信号によるテクトロAA5001歪率計との比較で検討しました。
最初はWaveSpectraでの歪み率がAA5001歪率計と大きく異なってしまい中々巧く行きませんでした。
WaveSpectraの設定条件を色々変えてみて何とか精度の良い歪率が求まるようになりました。本項はその記録です。
●擬似歪み信号での実験
まず擬似歪み信号を、以下の回路で作ります。
1KHz基本波100に対して2KHz方形波1ですので、歪み率は1/101=0.99%となります。
この擬似歪み信号を測りますと
理論値 | 0.99% |
WaveSpectra | 0.989% |
AA5001 | 1.01% |
と極めて類似の値です。
抵抗が5%級ですし、発振器の出力精度もあり、誤差の範囲で同一と見れます。
この時のWaveSpectraの画面です。
さて、歪み率の精度に最も影響を及ぼすWaveSpectraの設定はサンプル数(窓の大きさ)です。
サンプル数(窓の大きさ)を65536と大きく設定する事が大切です。
サンプル数を一つ下の32768に落とすと歪み率は1.385%と理論値から大きくかけ離れてしまいます。
サンプル数32768の時のWaveSpectraの画面です。
●他の周波数での実験
100Hz,1KHz,8KHzにおいて0.99%, 0.1%, 0.01%の擬似歪み信号を作って比較してみました。
比較結果としては
●1KHzは従来型歪み率計とほぼ同じ値を示します。十分信頼できそうです。
●8KHzは従来型歪み率計より20%〜30%高い値を示します。
●100Hzは従来型歪み率計より30%〜40%高い値を示します。
理論値---擬似歪み信号理論値 WS---WaveSpectra AA5001---テクトロAA5001歪み率計
0.01%の測定値がみな0.02%付近なのは入力レベルが360mVと低い為、周囲のノイズレベルによる制限です。入力レベルを上げれば0.01%近くの値となると思われます。
1KHz | ||
理論値 | WS | AA5001 |
0.99% | 0.989% | 1.01% |
0.1% | 0.101% | 0.105% |
0.01% | 0.0221% | 0.0225% |
8KHz | ||
理論値 | WS | AA5001 |
0.99% | 1.233% | 0.982% |
0.1% | 0.124% | 0.101% |
0.01% | 0.0244% | 0.0224% |
100Hz | ||
理論値 | WS | AA5001 |
0.99% | 1.346% | 1.027% |
0.1% | 0.136% | 0.108% |
0.01% | 0.023% | 0.022% |
●100Hzの測定精度の改善
WaveSpectraでの100Hzの歪み測定結果が既存歪み率計より高い値を示す件についてサンプリング周波数の設定により結果が改善される事が解りました。
96KHzサンプリングを48KHzサンプリングと遅くすると精度が改善します。
これは基本波が100Hzと低い場合はかなり高次の調波まで取りこんでもそれほど高いサンプリング周波数は不用なのと、基本波の分解能(裾の切れ)を上げる為にはなるべく多くの基本波周期を取り込んだ方が有利な為です。
サンプリング周波数を48KHzに落とせば同じ窓長で倍の基本波周期を取り込めます。
結果として30%以上高く出ていた値が10%減程度に改善されました。窓を変えるとさらに近似の値となります。
100Hz | |||
理論値 | WS 96KHz | WS 48KHz | AA5001 |
0.99% | 1.346% | 0.887% (1.049%) |
1.027% |
0.1% | 0.136% | 0.0898% | 0.108% |
0.01% | 0.023% | 0.0172% | 0.022% |
()内はブラックマンハリス窓
下図が100Hz,1%,96KHzサンプリングの画面です。
下図が100Hz,1%,48KHzサンプリングの画面です。基本波の裾野の切れが改善され基本波と歪みが分離し易くなっているのが解ります。
さらに窓をブラックマンハリス窓に変えるとより基本波の裾野の切れが改善されます。
歪み測定の場合、サンプリング周波数は高ければ良いというものではありません。
基本波が100Hz等と低い場合は基本波周波数に応じてサンプリング周波数を下げる必要があります。
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