2011/May/03 (c) S.Yoshimoto
直熱管のフィラメント点火方法には大きく分けて交流点火と直流点火があります。
交流点火は回路が簡単ですが残留ハム雑音が多く、2A3等の2.5Vフィラメントの球に用いられます。
直流点火は残留雑音を低く抑えられるので5Vフィラメント以上の300B等に用いられます。
現在では低い残留雑音性能を求め直流点火が主流となっています。
直流点火には整流と十分な平滑回路が必要ですが
整流と平滑には下記の2つの方式が用いられていました。
いずれの方式の球の消費電流に相当する整流器と大容量の平滑コンデンサ、そして大きな発熱を伴います。
今回は第3の方法として
での直熱管点火を実験しました。
DC-DCコンバータで点火された300Bメッシュプレート管
今回用いるDC-DCコンバータは変動のある高圧・低電流の電源を安定化された低圧・大電流の電源に変換するスイッチング式の電源素子です。
大変効率が良く、発熱が少ないのが特徴です。安定化された低圧・大電流が得られますので直熱管のフィラメント点火に適しています。
今回実験に用いたDC-DCコンバータは2機種でいずれも秋月電子で安価に売られている品種です。
12V、24Vとなっていますが、どちらの機種も電圧調整端子にて出力電圧を広範囲に設定できます。
利点としては下記が上げられます。
欠点としては下記が上げられます。
1.基本回路を組む
メーカ推奨回路を元に下記の実験回路を組み立てました。
結果、2.5Vから7.5Vまでの出力電圧が得られ、2A3(2.5V2.5A)、300B(5V1.2A)、50(7.5V1.25A)を点火できました。
10KΩ可変抵抗を調節して出力電圧を約2.5Vから9Vまで設定できます。
出力の状態
300Bを点火中の5V出力に含まれるスイッチング雑音の状態です。
10〜20MHz付近の強烈な雑音が3.3μsecおきに生じます。
HDR12003Eのスイッチング周波数は約100KHzで、その立ち上がりと立ち下がりの端で高い周波数の雑音が生じます。
2.実用回路を組む
スイッチング雑音除去のLCフィルタを組込ます。
非常に高い周波数の鋭い雑音を除去しなければならず、自己共振周波数の高いインダクタと高周波特性の良いOSコンデンサを必要とします。
インダクタは太陽誘電製のLHLC10NB 100K 10uH 3.5A 自己共振周波数19MHz です。
高い周波数の雑音を除去しなければならないので20MHz程度の自己共振周波数が必要です。
OSコンデンサは25V1uFです。一般の電解コンデンサや0.1uFのセラミックコンデンサではこの雑音を除去できません。
出力の状態
300Bを点火中の5V出力に含まれるスイッチング雑音の状態です。
20mVピーク程度の雑音が残りますが、雑音平均値は2.23mVrmsと十分低くなりました。
10msec掃引の画像です、雑音平均値は1.61mVrmsで残留ハム雑音もありません。
3.追記事項
2.5V2.5A出力時は効率が落ちる為、素子の発熱が増えます。しかし問題となるほどではありません。
2.5V2.5A出力時は整流直後の2個の35V1000uFに流れるリップル電流が増え、35V1000uFコンデンサが若干発熱します。
2.5V2.5A出力で用いる場合、この2個の35V1000uFには一般品ではなく低インピーダンス・高リップル品を用いて下さい。
1.基本回路を組む
メーカ推奨回路を元に下記の実験回路を組み立てました。
YDS-224は最低出力電圧が4Vなので、5Vから7.5Vまでの出力電圧が得られ、300B(5V1.2A)、50(7.5V1.25A)を点火できました。
10KΩ可変抵抗を調節して出力電圧を約5Vから10Vまで設定できます。
出力の状態
300Bを点火中の5V出力に含まれるスイッチング雑音の状態です。
100KHz付近の三角波状雑音が生じています。スイッチング周波数を中心とした典型的な雑音です。
HDR12003Eのような非常に周波数が高く鋭い雑音な見られません。
2.実用回路を組む
スイッチング雑音除去のLCフィルタを組込ます。
比較的低い周波数中心の雑音なので、値が大き目のインダクタを用います。インダクタの自己共振周波数は低くてもかまいません。
インダクタは太陽誘電製のLHL13NB 101K 100uH 2A 自己共振周波数3.3MHz です。
100KHz中心の雑音なのでコンデンサも一般の電解コンデンサで十分です。
出力の状態
300Bを点火中の5V出力に含まれるスイッチング雑音の状態です。
スイッチング雑音は皆無です、雑音平均値も1.52mVrms程度と十分低くなりました。
10msec掃引の画像です、雑音平均値は0.93mVrmsで残留ハム雑音も全くありません。
3.追記事項
YDS-224はHDR12003Eより効率が低く、その分発熱が多くなり、動作時の素子温度は結構熱くなります。
それでも触っていられる程度ですのでアナログ安定化電源よりは低発熱です。
1.電源トランス巻線の仕様
入力に用いる交流を供給するトランス巻線の容量を計算します。
2A3、300B、50の内最もフィラメント電力が大きいのは50なので、50を点火する条件で計算します。
50のフィラメントは7.5V、1.35Aですので電力は
7.5V * 1.25A = 9.4W
DC-DCコンバータの効率を余裕をみて低めに見積り70%とするとDC-DCコンバータ入力側電力は
9.4W /0.7 = 13.4W
トランスには14Wの巻線を用意すれば良い事になります。
DC-DCコンバータの直流入力電圧範囲はDC出力電圧+5Vから最大耐圧のDC40Vの範囲です。
余裕を見て、DC15VからDC30Vを整流後の直流電圧範囲とすると、
整流前の交流電圧範囲はAC11VからAC21Vとなります。
この場合
AC12V巻線なら必要電流容量は 14W/12V= 約1.2A
AC16V巻線なら必要電流容量は 14W/16V= 約0.9A
AC20V巻線なら必要電流容量は 14W/20V= 約0.7A
となります。
2.整流器
本実験に用いたAM1510は容量1.5Aのブリッジ整流器です。
本実験のように入力がAC20Vの場合、上記電源トランスの項での検討の通り電流が0.7Aなので容量1.5Aのブリッジ整流器で十分です。
入力をAC12Vとしたり、より大電力のフィラメントを点火する場合は電流が増えますので、増えた電流値に見合った容量のブリッジ整流器を用いて下さい。
3.整流後の35V1000uF 2本
整流後のコンデンサには大きなリップル電流が流れ、コンデンサが発熱し故障を生じることがあります。
コンデンサの耐リップル容量増加と負担分散の為に整流後には35V1000uFを2本設けています。
必ず2本用い、1本に纏めないで下さい。
DC-DCコンバータの効率が落ちる2.5V,2.5Aの2A3の点火や、より大容量のフィラメントを点火する場合、
整流後のコンデンサに流れるリップル電流が増加し、現行の一般品電解コンデンサでは発熱が生じます。
この場合は一般品に代えて低インピーダンス・高リップル品種の電解コンデンサを用いて下さい。
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