カスコード単段9Wシングルパワーアンプ
基本設計

単段アンプの出力段に必要な増幅度は?

出力トランスを用いた単段シングルアンプの出力段に求められる増幅度はパワーアンプとして求められる増幅度と出力トランスの降圧比、負帰還の為の増幅度を乗じた値となります。
下図の5K:6ΩOPTを用い、6dBの負帰還をかけた、増幅度10倍の単段シングルアンプ なら

出力段に必要な増幅度は

 パワーアンプとしての増幅度 10倍 X 5K:6ΩOPT降圧比 25倍 X 6dB負帰還 2倍 = 500倍

となります。
高増幅率で知られる電圧増幅管 12AX7 でさえカソード接地単段の増幅度は70〜80倍です。
500倍の増幅度が得られる出力管にはどんな特性が必要でしょうか?

出力管に必要な特性は?

10W程度の単段シングルアンプを実現する出力管に必要な特性は

となります。
一番の難題は500倍の増幅度です。
出力段の増幅度は下記の式となります。 gmは出力管の相互コンダクタンス、Rpは内部抵抗、RlはOPTの一次インピーダンスです。
  増幅度 = gm X ( Rp // Rl )     //は並列値の演算
今、OPTの一次インピーダンスを5KΩ、出力管の内部抵抗を50KΩとすれば、500倍の増幅度を得るのに必要な出力管のgmは
  500 = gm X ( 50000 // 5000 )
  gm = 0.11 S  Sはシーメンス
となります。
代表的な出力管EL34のgmは0.011S (11mS)しかなく、必要量の1/10でしかありません。
500倍の増幅度を得るにはEL34 10本分のgmが要ります。
それならば、EL34を10本並列にして、合計gmを0.11Sにすれば良いか?
残念ながら10本並列にすると球の内部抵抗も1/10になってRp//Rlの値が下がり増幅度はあまり増えません。
gmが0.11Sと高く、かつ内部抵抗が50KΩ以上高い出力管が必要です。

カスコード増幅回路

カスコード増幅回路はカソード接地の下側真空管とグリッド接地の上側真空管を直列に結んだ回路です。
周波数特性が良好で高周波増幅に良く用いられます。

このカスコード増幅回路を1本の出力管と考えると以下の特性を持ちます。

1本の出力管でgmが0.11Sと高く、かつ内部抵抗が50KΩ以上が無理でもカスコード増幅回路なら
下側真空管のgmが0.11S、上側真空管の内部抵抗が50KΩ以上なら良いのです。
極端な話、下側を1ユニットのgmが0.0125Sの6DJ8を10ユニット/5本並列、上側はEL34 1本で構成すれば 増幅度500倍の出力段ができそうです。

ハイブリッド・カスコード増幅出力段

とはいえ、6DJ8 10ユニット/5本並列は実用的ではありません。そこで高いgmが容易に得られるMOS-FETを下側カソード接地真空管の代わりに用います。
そして、高い内部抵抗と耐圧、許容損失を求められる上側グリッド接地真空管にはEL34、KT88等の5極出力管又はビーム出力管を用います。
ハイブリッド・カスコード増幅出力段の基本回路を示します。

出力管を自由に差し替えできる

上側グリッド接地真空管のプレート電流は下側MOS-FETのドレイン電流によって自動的に決まってしまいます。
つまり、上側グリッド接地真空管のバイアス調整は不要で耐圧と損失を確保できれば管種を問いません。
EL34でもKT66でもKT88/6550でもEL156でもピン配置に互換性のある出力管なら自由に差し替えられます。

詳細設計へ進む

カスコード単段9Wシングルパワーアンプ製作に戻る。